2023/05/09

第45回学生設計優秀作品展 作品紹介[2]

湯煙のたなびき
- 温泉郷における交流を生む場の提案 -

東京工業大学 環境・社会理工学院 建築学系 宮﨑 陸

[作品データ]
建物用途:公園
敷地所在地:大分県別府市鉄輪

[制作データ]
作品総点数:模型1点、図面4枚
制作期間:構想 - 2か月、制作 - 2週間
主な模型材料:バルサ、スチレンペーパーなど

[設計主旨]
別府鉄輪地区は湯煙の景観が国の重要文化的景観に指定された温泉地であり、当地区には約 100°Cの蒸気と湯が湧出する沸騰泉が数多く存在している。源泉という同じ地点から湧き出てくる蒸気と湯の性質はそれぞれ異なっており、蒸気は上へ昇り、湯は下へと流れていく。さらに、源泉からの距離が離れるほど利用可能な温度は低下する。本提案はそのような資源の性質から建築を捉えなおし、温泉地での建築のあるべき姿を描く計画である。当地区より抽出した温泉を利用する設えは‘湯治’と呼ばれる文化の一端を担っており、湯につかるものだけでなく暖房に利用するものや調理に利用するものなど多様だった。湯治をベースとした温泉地での生活の一部である設えを集め、様々な立場の生活が交 差する場を整えることで、人々の繋がりが長く連なり、文化を持続可能なものにすることを目指し「湯煙のたなびき」 と名づけた。

[推薦のことば]
東京工業大学 助教 佐々木 啓

別府鉄輪温泉は、高温の源泉が数多く湧出することで有名です。その利用形態は実に多彩で、浴用だけでなく、飲泉用の蒸気吸入、修景用に蒸気を発する池、温室まであり、なかでも地獄釜と呼ばれる蒸気による調理装置は、古来より続 く温泉資源と生活文化の結びつきを物語るものです。かつて鉄輪の宿は農家による半農半営の貸し間で、ほとんどが湯治客だったそうです。客は外湯に通い、七日一回りとされる湯治に励み、地獄釜で自炊する。ところが、高度経済成長期を経てレジャーが普及し、宿は内湯を備えた食事付き旅館へシフトします。宿の数だけ掘削による源泉も増え、近年では周辺の地熱発電利用も重なり、温泉資源の枯渇が懸念されています。この作品は、源泉を利用する多様な設えの再配置によって、内湯の私有ではなく、外湯の総有による現代の湯治文化を考える試みです。湯や蒸気のふるまいを繋 ぐメカニズムや、客のふるまいを繋ぐ街との関係が描ければ、より説得力が増したように思います。



第45回学生設計優秀作品展 作品集から
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